ウイルス学向け顕微鏡ソリューション
ウイルスおよびウイルス感染症の研究
ウイルス学は、ウイルスやウイルス感染症の研究を行う微生物学の重要な一分野です。ウイルスが人類に与える影響は非常に大きく、スペイン風邪(インフルエンザウイルス、H1N1)、AIDS(ヒト免疫不全ウイルス、HIV)、デング熱(デングウイルス、DENV)、最近のCOVID-19(コロナウイルス、SARS-CoV-2)など、重大なエンデミックやパンデミックの原因となります。
ウイルスや、ウイルスと宿主細胞の相互作用、ウイルスに対する免疫反応の研究は、病原ウイルスに対するワクチンや治療薬を開発するのに役立ちます。そのような理由から、ウイルス学と免疫学は深い関係にあります。
臨床の場でウイルス感染症を確認する検査方法は無数にあります。分子技術の発展や血清学的検査の感度上昇により、ウイルス学は急速に変化し、様々な検体を使ったウイルス検査が可能になりました。
多くのウイルスはラボの培養細胞を使って増殖させることができます。ウイルス学者がウイルス検体を適切な宿主細胞と混ぜると、吸着や播種と呼ばれるプロセスを経て、感染した細胞はウイルスのコピーを多く産生するようになります。増殖に特定の細胞を必要とするウイルスも存在しますが、様々なウイルスの増殖に適した細胞として、アフリカミドリザル腎由来Vero細胞、ヒト肺線維芽細胞MRC-5、ヒト上皮細胞様がん細胞Hep2などがあります。
細胞内でウイルスが順調に増殖しているかどうかは、細胞培養アプリケーション用の倒立顕微鏡を使い、細胞形態の変化や細胞死(アポトーシス)の増加を調べることで確認できます。このような形態変化は細胞変性効果(CPE)と呼ばれます。光学顕微鏡は、細胞内のウイルス凝集による細胞質内封入体など、組織病理学的変化を簡単に素早く観察する際にも役立ちます。ネグリ小体は大型の特徴的な細胞質封入体であり、典型的にはリッサウイルスによる狂犬病で、HE染色した様々な神経細胞に認められます。
ウイルス学では蛍光顕微鏡の重要性が高まっており、一部のウイルス感染では、免疫蛍光法が診断や定量に使われます。蛍光標識法と顕微鏡の進化によって、細胞内コンパートメントとウイルスの共局在の定量などを通じて、宿主ウイルス相互作用やウイルスの伝搬と複製についてより高度な研究ができるようになりました。感度と分解能が改善し自動化が進んだ顕微鏡システムは、治療に対する反応など、ウイルスに感染した細胞について多くの情報を得るためのスクリーニング手法の基盤となっています。
電子顕微鏡は多くの場合、微細構造の観察や、特定のウイルスの同定に使われます。特に光学・電子相関顕微鏡法(CLEM)を使うことで、ウイルスと宿主細胞の相互作用について独自の情報が得られます。
顕微鏡の要件
培養細胞の観察や維持には、設置面積が小さく、蛍光LED光源を搭載し、人間工学に基づいた設定で確実なデジタルドキュメンテーションを行う高精度の光学系を備えた倒立顕微鏡が欠かせません。免疫蛍光法により、単純ヘルペスウイルス(HSV)、A型インフルエンザ、呼吸器ウイルス、エンテロウイルスに対する抗体検査キットなど、直接蛍光抗体試験(DFA)や間接蛍光抗体試験(IFA)を用いた迅速なウイルスの検出が可能になりました。
キャリブレーション、環境制御、蛍光オプションが内蔵された自動顕微鏡システムは、培養細胞や組織の2D・3Dでの全自動スクリーニングを可能にし、ハイスループットが求められるラボに最適です。共焦点顕微鏡では、ウイルスの細胞侵入を詳細に観察するとともに、免疫電子顕微鏡での観察用に試料を調製することができます。
走査型電子顕微鏡(SEM)は、近年の技術発展により、ウイルス研究に必要な分解能と画質を提供するようになりました。光学・電子相関顕微鏡法と自動ワークフローを組み合わせた広視野イメージングでは、原因ウイルスの同定までの時間が短縮され、3D画像の場合でもすぐに結果が得られます。