クライオFIB-SEMのアプリケーション
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FIB-SEMでは、試料をSEMの電子ビームでイメージングした後、集束イオンビームで3~10 nmの極めて薄い部分をミリングによって取り除きます。次に、試料を再度イメージングし、完全な3Dボリュームの高分解能ビューが構築されるまでプロセスを繰り返し行います。クライオFIB-SEMが、ガラス化試料からこれらのボリュームを生成するため、実際の状況に近い状態で微細構造を3Dで捉えることができるようになります。
がんにおけるミトコンドリア分裂イベントの役割を理解する
がん細胞は、ミトコンドリア分裂に対して強い表現型を発現しますが、これは薬剤に対する耐性を潜在的に説明するものです。がん細胞がこの表現型を発現する理由やその様子、また治療がどのように表現型を抑えることができるかを理解することにより、疾患の進行を遅らせる方法に関する研究をサポートすることができます。
このアプリケーション例では、蛍光イメージングと高分解能のクライオ電子顕微鏡を併用するワークフローの一部に、クライオFIB-SEMを使用しています。このアプローチにより、ミトコンドリア分裂イベントの包括的で精度の高い評価が可能となります。
蛍光イメージングと微細構造のイメージングで得られる情報を組み合わせることで、ミトコンドリアのネットワークを視覚化し、この腺がん細胞株ではミトコンドリア分裂の発生率が増加していることを確認することができます。
この相関データには、同じ細胞の蛍光情報と構造情報の両方が含まれており、ZEN Connectを用いてコンテキスト上に示されています。細胞はサファイアディスクで培養し、その後プランジ凍結されました。ZEISS LSM 900を使用してクライオステージで蛍光データを(赤がアクチン-mCherry、緑がMitotracker(ミトコンドリア))、ZEISS Crossbeamを使用してSEMデータを取得しました。
極低温固定によって試料を作製することで、化学固定で生じ得るミトコンドリアの堆積などのアーティファクトを防止し、試料を実際の状況に近い状態で保存することができます。
プランジ凍結された腺がん細胞
クライオFIB-SEMや共焦点顕微鏡法など、複数のイメージングプラットフォームを用いる実験を計画する場合、1つの手法から別の手法へと簡単に切り替え、画像取得のために全く同じ場所を見つけることができれば、ワークフローの効率は大幅に向上します。この例では、ZEISS LSM 900による蛍光情報(Mitotracker)とクライオCrossbeamによるミトコンドリアの構造情報とのシームレスな組み合わせによって、腺がん細胞をさらに深く理解することができます。
試料は極低温で保存し、ZEISS LSM 900およびZEISS Crossbeamの両方で極低温下でイメージングしました。簡単なワークフローにより、様々な手法に慣れていないユーザーでもこうしたアプローチが可能になります。
微細構造レベルで細胞構造を理解する
神経系が正常に機能するためには、軸索における髄鞘形成の過程と程度が非常に重要です。疾患や異常な状態のミエリンの厚さの変化をモニタリングすることで、髄鞘形成と脱髄の過程に関する理解を深めることができます。これにより、髄鞘形成が阻害された病態を治療するためのアプローチ開発につながります。
ミエリンの厚さの定量的評価には、ミエリンおよび軸索の構造における高分解能ビジュアライゼーションが必要不可欠です。クライオ固定を使用して、実際の状況に近い状態の細胞構造を維持し、クライオFIB-SEMを用いて高コントラストで取得することにより、重金属造影剤を添加することなくミエリンの厚さを高い精度で3D測定することができます。
高圧凍結したマウスの視神経(14日齢)
FIB-SEMでは、重金属造影剤の添加が不要で、極低温で保存した試料からこのような高分解能の高コントラストボリューム情報を生成することができます。
この1枚の2D画像の元となった3Dデータセットは、-150℃で取得されたため、試料は実際の状況に近い状態でイメージングされました。試料のイメージングおよびミリングをZEISS Crossbeamを使用し同時に行った結果、全体的な取得効率が大幅に向上しました。
無数の有髄の軸索(ax)と、核(nu)やミトコンドリア、ゴルジ複合体などのオルガネラを有する細胞体が視認できます。プロセス中の他の細胞のゴルジ複合体(g)や、神経の軟膜を形成している細胞外基質(em)のコラーゲンも識別可能です。
円石藻における方解石結晶のバイオミネラリゼーションプロセスを観察する
従来の水ベースの試料作製プロトコルでは、水溶性非結晶フェーズのカルシウムである円石藻の微細構造環境のイメージングは困難です。しかし、FIB-SEMを極低温条件下で操作・使用することで、実際の状況に近い状態においてガラス化した海藻類をイメージングし、微細構造を3Dで明瞭に観察できます。
ZEISS FIB-SEMは、重金属染色を必要とせず、高コントラストなボリュームイメージングを実現します。ZEISS Crossbeamのエネルギー選択性反射電子(EsB)検出器を使用することにより、成熟した円石と発生時の円石の区別を可能にする3D画像が取得できます。同時に、レンズ内二次電子像でも膜結合性コンパートメントが明らかになっています。
この動画では、円石藻エミリアニア・ハクスレイの3Dビジュアライゼーションを見ることができます。E. huxleyi(円石藻)の細胞を遠心分離により採集し、高圧凍結して液体窒素で保存しました。試料作製とデータ取得のプロセス全体を通して、温度が-150℃以上にならないように保たれました。3D再構築により、成熟した円石(黄)、発生時の状態(青)と脂肪体(赤)の円石が示されています。
試料表面を集束イオンビームで除去し、その後新たに露出した試料表面を電子ビームでイメージングしました。このミリングとイメージングのプロセスを繰り返します(画像解像度:2048 x 1536 nm)。
E. Coliなどの細菌の構造と機能を理解する
大腸菌(E. coli)は通常、健康なヒトや動物の腸で生存しています。一般にこの細菌は無害ですが、特定の株は下痢、腹痛、微熱などの症状を引き起こす恐れがあります。E. coliの構造や、その構造が異なる薬剤に応じてどのように変化するかを理解することにより、新しい治療法や予防法の開発をサポートすることができます。
細菌を電子顕微鏡で観察すると高分解能解析が可能となり、構造と機能の理解に役立ちますが、多くの場合、光学顕微鏡では達成することが困難です。構造解析を3Dに拡張することで、細菌の完全な画像が生成され、細部まで観察できるようになります。これには別の方法もありますが、その多くは造影剤が必要です。クライオFIB-SEMは、造影剤を添加することなく、細菌を実際の状況に近い状態でイメージングすることができるため、この点が研究に欠かせない技術であると言えます。
大腸菌
ここでの観察対象は、このE.Coli試料の天然状態における形態です。E. coliの3D構造と細菌の外部を覆う銀色のナノ粒子が画像で確認できます。
試料は、Inlens検出器を用いてクライオFIB-SEMでイメージングされました。
大腸菌
このデータセットでは銀色のナノ粒子が特によく観察できます。この情報をInLens検出器で取得した画像と組み合わせると、細菌の3D構造と表面について多くの洞察が得られます。この画像は、EsB検出器を用いて取得されたものです。